小説「受験期JK」①
椅子から腰を数センチ浮かせてスタンバイ。
生理2日目は椅子をあらかじめ横にずらすのがポイント
数秒の努力も栄光を掴むんだよきっと。
時計の針がジリジリ揺れて
12にカチッと重なる瞬間に
教室を出て左方向にダッシュだ
階段まではすぐだけどワンテンポでも
無駄足を踏むとロスになる
もちろん二段飛ばしで降りるスキルは
習得済み
こんなに後方からの足音が恐怖に感じることは
普通に生活していたらそうない
あー焦れったい、どこでもドアがあったら
誰よりも早く手に入れることができるのにな
そうこうしているともう見えてきた
くたびれた水色、馬小屋でしょうか。
おそらく現在、人口密度が最も高いといっても過言ではない、夢の空間のご登場
並べられたパンの配置を
視界に捉えることができなくても大丈夫
感触が伸ばした手に吸い付く
そう、みんな大好き
焼きそばパン
4限後半、全意識はこの焼きそばパンのために消費されているのだ
購買のおばちゃんは空間察知能力、瞬発力、正確さ、全てにおいてこの世のものとは思えない
おしくらまんじゅうの四方八方から伸ばされる手に握りしめられているパン達の値段を
一瞬で捉える
「はいよ、180円ね」
「はいよ、200円ね」
「20円のお返しね」
「はいよ、160円ね」
「40円のお返しね」
「これ何入ってますか」
「はいよ、20円のお釣りね」
「これは木苺と胡桃のクリームチーズ!」
「140円ね」
阿修羅像の如く売りさばく動作に
1つの隙も乱れも感じられない
大量買いにも適応できるから
サッカー部にもおばちゃんは倒せないのだ
無敵だ
隣りで飲料のみ、何故か別売りで
おじいちゃんが売っている
馬小屋の隅に押しやられる形となって
存在感をかき消されているけれど
いつだってその微笑みと
いちごオレはかかせないよ
教室に戻るともう5人の机が輪の形に
並べられている
達成感に満ち溢れた私の顔を待っている
呆れ顔
と
泣き顔
イマイチなりきれないJKの話を始めよう